山に暮らす 実家待機


 


 岩手県は、良いのか悪いのか?感染者が未だに一人も出ていない。

だから、緊急事態宣言が全国的に解除となった日
(その日がいつか?よくわかっていないが)が来ても、県外移入者は
2週間の自宅待機をこなさなければならない。

東京を出発して、直接現地へ行こうと思ったものの、盛岡からさらに山道を
2時間以上走らなければならない山奥の移住先には片道8時間半かかってしまう。

長距離といえども、せいぜい4時間くらいのドライブには慣れている自分だが、
その倍の時間をノンストップとなると心配になってしまう。

道中、移住担当の人と話していると「2週間待機は県内ならばどこにいても良い」
との話を聞き、自分の実家は小岩井にあるので、寄ろうか?少し迷ってしまった。

「むしろその方がこっちもありがたい」と担当者には言われたものの、
実家には身体の弱い親父がいる。だから躊躇した。行く前までは寄るつもり
なんてなかった。もし俺が無症状の感染者だとして、
「伝染してしまったら親父は確実に死ぬ。しかも県内初の感染者が出た!
なんてシャレにならねえ」なんて弱気心もあったからだ。

母ちゃんの「(長時間運転は)危ないから家に寄ってった方がいい」
なんて甘い言葉に誘われて、結局実家に立ち寄ることにした。

恐る恐る玄関を開ける。取手も素手で触らないように気をつけて。
3日間はマスクをしたまま過ごした。
なるべく親父にも近づかないようにした。

4日経っても家族共々平気だったので、マスクを外して、人が居ないことを
確認してから、目の前の抜けのいい田んぼ地帯を散歩することにした。

人の多過ぎる東京での2ヶ月の自粛生活は、極力自宅にひっそり暮らし、

人気のいない多摩川で子供とこっそり遊ぶ、
なんてことをこなして来た自分だったけれど、
今は、実家の目の前のだだっ広い田んぼの中をひとりポツンと歩いている。
とても気持ちがいい!俺の地元は「こんなに気持ちの良い場所だったのか?!」
なんて、やけにオーバー気味に感じ入ってしまった。

ただでさえ人がいない。こんな状況だからさらに誰を見かけることもない。
なのに、
まるで泥棒のような気持ちで、
世田谷ナンバーで東京から逃げて来た、わけでもないのだけれど、
周りの目を気にしながらヒソヒソと過ごしていた4日間が、
なんとなく馬鹿みたいに思えてしまった。。。。

何やってんだろ?俺。なんて思いながら。。。

次の日の朝は子供の頃によく遊んでいた小岩井農場の敷地内を流れる
名もなき川へと散策に出かけた。釣竿を持って。

絶対に誰とも合わない秘密の場所。
子供の頃は、探検だ!なんつって、友達と川沿いを歩くって行為に
興奮して遊んでいた、その川はおっさんになって歩いてみると、
やけにちっぽけな川だなあ。。なんて拍子抜けしながらも誰にも干渉されない
この時間を思う存分楽しんだ。 

川の底にムール貝のような貝が落っこちてる。
誰かが食べた貝殻が流れて来たのか?と思ったけれど、拾い上げてみると、
生きていた。ひとり森の中でびっくりしていると、川底には無数のその
ムール貝みたいな貝がゆっくりとパクパクやっている様子が見えた。

こんなところに貝がいるなんて!ひとり興奮した。
あとで友人の鈴木新に話すと、それはイシガイの仲間じゃないのか?と教えてもらえた。

子供の頃には気がつかなかった、知らない生き物がいることを知ったことに
興奮した。

毛針をキャストするものの、緩やかな流れで静かすぎるその川の魚は、
俺の身体の動きだけで一目散に逃げていってしまう。

結局一匹も釣れなかった。

小岩井農場のどこかが水源であるその名もなき川は、"渓流"とは程遠いほどに
岩も石も無く、ゆったりと流れる"土の川"であることがわかった。

東京近郊で言うところの、忍野の川に似ている。

つづく








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